シンポジウム
〜グローバル化された世界における「表現」の未来〜

※イベントは終了しました。イベントレポートについては下記をご覧ください。
日程
2018 年 10 月 20 日 (土) 14時~16時50分(予定)
場所
京都精華大学 明窓館 M-201
プログラム
基調講演 ウォーレ・ショインカ氏(ノーベル文学賞受賞者)
対談 「グローバル化された世界の未来、人間らしく生きること」
ウォーレ・ショインカ氏×ウスビ・サコ(本学学長)

イベントレポート

創立50周年記念シンポジウム
〜グローバル化された世界における「表現」の未来〜

2018年10月20日、ナイジェリアの詩人ウォーレ・ショインカ氏を大学にお招きし、シンポジウムを開催しました。基調講演の後はサコ学長との対談が行われ、これからの教育について意見が交わされました。

【第一部 基調講演   TEMPLE AND TEMPLATE:EDUCATION INTO HUMAN RIGHTS.】

好奇心、探究、創造性。
この3つが教育の本質である。

ショインカ氏は、1986年にアフリカ出身者としてはじめてのノーベル文学賞を受賞しました。イギリス・リーズ大学で英文学を研究し、母国であるナイジェリアの内戦時にはヒューマニズムの立場から連邦政府を批判し、同国の政治史において大きな役割を果たされています。

講演ではまず、世界人権宣言において教育が重要視されている点に言及されました。人が己を人間と認識し学んでいくことは、ホモ・サピエンス(賢い人間)である人類にとって時を越えて重要な概念であることや、人間だけが現状をつくりかえる能力をもつこと、またある現象を変容させる要因そのものにもなり得ることを示しました。

続いて、世界人権宣言第26条の教育を受ける権利に触れ、とくに3項の「親は、子に与える教育の種類を選択する優先的権利を有する」という部分に言及。ナチスや日本における人種優越主義、アフリカのアパルトヘイト、さらにISの一員として残虐なシーンを世界に示したジハーディ・ジョンを取り上げ、歴史に学ぶことや、親が子どもに授ける教育の重要性に気づくべきだと指摘。また、母国ナイジェリア、マリ、ソマリアなどの例を挙げ、アフリカ大陸の多くの地域で教育に危険が及んでいる現状を警告しました。

話題は未来を育む教育とは何かへと移ります。ショインカ氏は「人間があるできごとに見舞われたときに、知的な態度で対処できるかどうかで教育の質が問われる」と述べ、教育の質を担保する重要な要素が好奇心と探究心であると示しました。

「われわれは好奇心によって、自分が思っている範囲を超えた、より広い世界を見ることができる。人為的な境界線や思い込みによる区切りを越えさせてくれるものこそが教育である」「人間は、常に新しいものを求めて地球上を探求する生き物である。最終目的地点に達するときに手にしているものこそが知識、知恵である」と説きます。さらに、教育とは単なる知識の蓄積ではなく、好奇心をベースにしたテンプレートが自分の中に培えるかどうか、新しい秩序や新しいものに出会ったときに、知的な反応ができる素地を自分の中につくれるかどうかが重要だと語りました。

学術の問題にも言及し、科学技術が進展する現代において、科学と人文学との間に境界線が引かれていることが問題となっている点を指摘。教育の手法を改善することでこの境界をなくし、学生がオープンに学術と向き合えるようにしなければならないと説き、宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士が2012年、ロンドンパラリンピックの開会式で送ったメッセージを取り上げました。

「パラリンピックのゲームは、世界をわれわれがどう受け止めるかという考え方を変容させていくものである。われわれはみな違っている。標準の人間というものはない。人間としての精神は等しく共有している。ただ、重要なのは、われわれは創造する力を持っているということ。この創造性はいろいろな形で発露できる」。

ショインカ氏は「ホーキング氏の言葉の中には、どこかに文学が隠れており、私も詩のどこかに量子物理学を忍ばせているかもしれない」と述べ、学問における境界の曖昧さを指摘し、いずれの学問にも「世界を受け止めて変容させること、すなわち創造する能力」があると語りました。そして、「われわれ二人は次の点で意見が一致している」と、次のような印象的な言葉で講演を締めくくりました。

「人の探究心には限りがなく、タブーに挑戦をすることにおいても限界はない。好奇心、探索、物事を変容させること。この3つが、われわれの学びの神殿に存在する重要な神父である」。

【第二部 特別対談  グローバル化された世界の未来、人間らしく生きること】

足元を見て、
他者との共存を探る

はじめにサコ学長がショインカ氏の講演を総括し、「人間はホモ・サピエンスに達していないという世界観と知性の自由について学んだ。本学で取り組んでいる、若い人たちが自分たちのヴォイス、つまり自分の意見を持ち、自由を獲得した上で、どう人生を歩むべきかを導く教育について重要な示唆をいただいた」と話しました。

話題はショインカ氏が経験した権力からの弾圧に及びました。ショインカ氏は「当初、わたしは祖国から亡命しなければならない事実が受け入れられずにいた。そこで亡命を『政治的サバティカル(長期休暇)』と言い換えることにし、自分を納得させた」と振り返りました。空港では暗殺者から狙われたという当時の厳しい状況についてもユーモアを交え、柔軟な知性で苦難を乗り越えてきたエピソードの数々を語りました。

ショインカ氏と、自国を出てグローバルに活躍している、という共通点をもつサコ学長は「闘えば変化がくるかもしれないと信じられたショインカ氏の時代と異なり、現代は世界の一極化が進み、人間の価値を認めない風潮をもたらしている」と指摘。そのような時代の大学として「教育におけるグローバル化とは、互いの違いを理解し分かち合うこと。足元をきちんと見て、他者と共存することを重要視している」と大学教育の信念を語りました。

次に、グローバル化と経済格差の問題について、サコ学長が「貧困を語るのに、偏った仕組みでしかものを見ないことが問題だ。物質的に豊かであっても、精神的には貧困ということもありえるだろう。自分が学生たちに教える中では、フレーム化された定義そのものを崩していくことを意識してきた」と語ります。また、表現の大学として「学生に選択肢を増やすことが重要」だと述べ、「京都精華大学の学生には、すべての分野に自分が学ぶ可能性や権利があり、また学んだことを活かす場所があると思えるようにしていく」と今後の抱負を語りました。

最後に、会場からの質問にショインカ氏が答えました。「権力者へのもっとも効果的な反撃方法は」という問いには、「民主化されたメディアの中で主張を続けていくことが大切だ。言葉の選び方だけでなく、イメージをうまく使うことも含めて効果的なコミュニケーションを追求することだ」と述べました。

表現やリベラルアーツ、グローバルや多様性の追求によって若者たちがどのように自由を獲得できるのか。京都精華大学が追求していく問いの重要性を改めて確認することができた、意義深いシンポジウムとなりました。

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